その夜。

私と麻里は会社から2つ離れた駅の近くのバーで飲んでいた。

一体何杯飲んだんだろう。

お酒の強い麻里と同じペースで飲んでたら、

いつの間にか頭がボーっとして何も考えられなくなっていた。

丸いスタンドテーブルの向かいには、ワイングラス片手に愚痴っている麻里の姿。

静かなジャズの音色に耳をかたむけていたら、だんだん意識が遠のいていく……

カタッ。

はっと気づくと、

目の前には鮮やかなブルーの液体が入り、縁にはグレープフルーツが一切れ差し込まれた、

二つのグラスが置かれていた。

「チャイナ・ブルーです。あちらのお客様がぜひお二人にと……」

そう言われて私と麻里は顔を見合わせ、店員が示す方向に目をやると、

カウンターに腰掛けたスーツ姿の二人の男性が目に入った。

すると麻里が私の腕をぎゅっとつかみ、

「ちょっとぉ、チャンスじゃない?あの二人、あたしたちに気があるのよ!」

と目を輝かせて言う。

「行ってみましょ!」

麻里がさっと立ち上がると、

「ちょっと待ってよ」

気が進まない私の制止する声も聞こえないようで、カウンターに向かって歩き出していた。

その場に残るわけもいかず、私も麻里の後を追った。

「お酒、ありがとうございます」

麻里の声に、カウンターに座っていた2人が振り返る。

ちょうど追いついた私は、そのうちの1人の男の人と目が合った。

黒のストライプのスーツに、

ワインレッドのネクタイ。

黒い短髪、

一重で切れ長の目。

目。

……あの人の目は、心なしか少し寂しそうで、

そして冷たかった。