澪が帰ってしばらくしたあとの教室ーーー



そこには一人の少年がいた。

「いるわけ、ないか・・・」


少年は教室の入り口でそうつぶやくと、窓側の列前から二個目の席に近づいた。

そして右手でその机に優しく触れる。



机を見つめる少年の瞳はとても優しかった。しかし同時にとても悲しくもあった。
なにかを後悔するような瞳・・・


「・・・澪」


少年はその時初めて名字ではなく名前を口にした。
本人の前では絶対に名前で呼ぶことはしなかったから。


「澪・・・俺に勇気があれば、変わっていたのだろうか・・・」


少年の口からこぼれた疑問に答えるものは誰もおらず、ただ静寂が支配する教室に響くだけだったーーー