「そんな腕の持ち主なのに、近衛を辞めたのか?」


「ルカさんはハデス家の人間だからな。次期当主と言われている。」


ハデス家?


「…シド、お前ハデス家を知らないのか?」


ルカが呆れたように言った。


「いいか、この国は8つの州に分かれているだろ。デリヌア州、コモイン州、ルーズト州、タルスツ州、バミーダ州、ロドイン州、ハデス州、そして王都であるここトルマン州。ルカさんの出身のハデス州は王都から最も離れたところに位置している。」


シドは生まれも育ちもトルマン州だが、ハデス州には一度も行った事がなかった。


「ハデス家は現当主から数えると100年続く家柄だ。そしてその一族には今でも多くの魔法使いが残っている。ただの魔法使いじゃなく、闇の力を持つ者もな。」


…闇の力?


「一族の中で限られた人間がその闇の力を持って生まれる。ルカさんもそのうちの一人だ。ハデス家はその力で王家を脅かすような事がないよう誓いを立てられている。人間離れしたその力を使えば国は滅んでしまうからだ。これは100年間続く契約なんだ。」

そんな力が存在することなんてシドは全く知らなかった。


「ルカさん、どうして王都に戻ってきたんですか?」

兵士たちの質問に、ルカはチラッとアンナを見た。


「…アンナに話があって来たんだ。」


ルカの言葉にそっぽを向いていたアンナはゆっくりとルカへ視線を動かした。