シエルはノエリアをそばに置いてから日に何度もノエリアに愛を囁き、ノエリアは彼のことをもっと好きになる。変わっていく。もっと一緒にいたいし近くにいたい。けれど、ここのところ仕事が忙しく外出も多い。

「わたしからもお話しますね。ノエリア様が寂しがっていらっしゃいますと」

あらためてそう言われると恥ずかしくなるのだが。いい大人なのに子供みたいだと呆れられないだろうか。
本を片付けると、ノエリアは懐から小さい封筒を取り出すと、リウに差し出した。

「お手紙をね、書いたの。シエル様にお渡ししてくださる?」

今日の勉強会でリウに頼もうと思っていて、昨夜ベッドで書いたのだ。

「承知いたしました。喜ばれるでしょう」

リウは封筒を鞄に入れると、本をワゴンに戻して人を呼んだ。ノエリア付きの侍女が来ると、指示をしていく。

「休憩だからノエリア様にお茶を。では、ノエリア様、わたしは職務に戻ります」

ノエリアはリウに礼を言い、部屋から出る背中を見送る。
侍女に用意して貰った紅茶とひとくちサイズのクッキーを前に、ため息をつく。

(ああ、シエル様に会いたいなぁ)

王宮はとにかく広いので、どの部屋にいるのかも分からない。それに勝手に出歩いては怒られるし、無事に自室に戻って来られるほど王宮内部に詳しくない。

(もっと気軽に会いに行けたらいいのになぁ)

あまりワガママを言ってはシエルに迷惑がかかる。
ノエリアはクッキーを三枚一気に口に入れ、テーブルに突っ伏した。
                             

夕食の時間になると、ノエリアはいつも食事をするためのダイニングに行った。テーブルには準備が整えられていたが、シエルの姿はない。またこの広い部屋の大きなテーブルで、ひとりで食事をするのか。小さいため息が出てしまう。

リウが言っていた今夜は時間があるというのは夕食のことではなかったのだろうか。このあとなのか。それとも急に別な仕事が入ってしまったのだろうか。
伴ってくれた侍女が部屋を出て行こうとするのを呼び止めた。

「あの、今夜もひとりで夕食なのでしょうか」

ノエリアは王宮侍女のサラへ声をかけた。
サラは子爵令嬢で小柄で快活な可愛らしい女性である。王国でよく見られる茶色の髪に青い瞳だ。歳はノエリアのふたつ上。

「わたくしどもは別室でいただきますが、どうなさいました? そしてノエリア様、敬語でなくてもよろしいですよ」

サラはまだここの生活に慣れないノエリアにとても優しくいつも気遣ってくれる。

「あ……ええと。ひとりで食事するのは寂しくて……サラ、一緒にいかが?」

ノエリアが誘うと、サラは慌てて口に手を当てた。

「どうしたの?」

「いけない。わたしとしたことが、お伝えするのを忘れていました!」

「なに?」