湊、恐怖の夜の時間である。
そのせいで、徹夜をした回数は数しれず。
「本当に、見るんだ」
「せっかく獲物を釣ったのに、やすやす見逃すとでも?」
「あー。そうだった」
京は、湊の部屋に行く前にレンタルDVD屋さんに寄った。
「吸血鬼のホラー映画」
「外国では定番の映画らしい」
「そっか」
これを見るのか、と湊は借りてきたDVDを見た。
内容がなさそうな映画である。いや、吸血鬼に襲われるという伝統芸はありそうだ。
つまらないけれど。
湊にとってはすっごくつまらないけれど。
「寝たい」
「そう」
湊のせいでついたスルースキルは今披露するものではないと知っでいる。
「ホラーはホラーだけれど、展開が読める話は嫌いだものね」
「まあ」
湊はフラグを立てたせいで展開が読める話よりも、フラグがない急展開の方が好きだ。
「でも、安心して」
「それが一番安心できなんだけど」
映画が進む。女性の吸血鬼に襲われるというシーンが続いた。
京が不意に口を開く。
「吸血鬼ってどう思う?」
「別に」
吸血鬼の存在自体が現実味がないのだ。
「八重歯、可愛いとおもう?」
「別に」
「どうしたの?」
「やっぱり、何か」
「八重歯が可愛いと思うの?」
「うん」
「そっか。まあ、松尾とか初対面でなかなかの好印象を与えるもんな」
「そっか」
クラスメートの一人を上げた。変人、奇人に含まれる一人である。
髪の色はがっつりピンクと黄色の二色混じりだが、澄んでる瞳と八重歯がとてもチャーミングなのだ。
「別に、京も可愛いと思うんだけど。
何をコンプレックスに感じてるか知らんけど、生まれつきのものはどうにもできない。
けれど、僕は京は可愛いと思う」
二人とも、戦闘中の女優を見てる。しなやかな動き。生まれつきの美貌、八重歯。美しさとは。
「たしかに、吸血鬼のような八重歯はない。
けれど、一朝一夕では身につかない仕草や、身だしなみがきちんとしてるし、言葉使いも美しく聞こえる言葉を選んでるんでしょ?
自分がやってることに自信を持ちなよ」
「そう?」
「そう
僕は京のいろんなことを知ってるし、できないこともダメなことも知ってる。
それでも、可愛いと思うんだ。
まあ、そんな問題じゃないかもしれないけれど」
「うん、そんな問題じゃない、んだけど。
なんか、どうでも良くなっちゃった。
ただのないものねだりですもの」
「そう。よかった」
この吸血鬼。人に似てて人ではない存在の末路を二人は最後までみた。
「じゃあね」
「泊まっていかないの?」
「あまりよろしく思われないのはわかってるでしょ? あまり言いたくはないんだけれど」
「送っていくよ」
「時間が時間だからいらないわ」
「それだから言ってるの」
心配なのだ。映画を見てたら、いつの間にか十時。そんな状態で一人で帰ったらどうなるのか、わかっているのだろうか。
「大丈夫。わたくしは、大丈夫ですのよ」
「そう言われても……」
「その時間に出たら逆に補導されてしまいますわ」
「たしかに、身長低いし、童顔だけど。あのね」
「失礼いたしますの」
「だから、ちょっと」
ヒールの音がする。嵐のような幼馴染は、本当に。
「なんなの、もう」