放課後。

「あら、どうかしたの」

「いや、最近少し、悩んでて」

「何かしら。人間関係?」

「人間関係はいつものこと」

「まあ、湊。友達がわたし以外にもできたのだから、そこは喜ばないと」

「喜べないよ……。そんなの」

「そうか、それもそうね」

 目が鋭くなる。

「それでどうかしたのかしら?」

「いや、ちょっと」

 京が手の内を晒した。

「最近、フライパンの洗い物を見ていないわね。あなたはいつも、時間を置いて洗い物のするほうなのに」

「わかってるじゃん……」

「わからないとでも思ったのかしら。わたしは、何年あなたと接しているか、存じてる?」

「十五年です」

「あらあら。知っていたのね」

 口元を隠して微笑んだ京を見てから、ため息が出そうだ。

「白々しい……」

「そこで、提案がありますの」

「これが本題でしょ?」

「わかった?」

「うん」

 カバンから取り出したのは、最近噂の店のものだった。

「期間限定の食べ放題のチケットがここにあるわ」

「本当に、悩みわかってるんだね」

「趣味のスランプでしょ? 言うのであれば、タイミングがうまく合わないってところかしら。
 鍋で煮込み料理ばっかり作ってたからわかるわ。味に違和感がありすぎて作りたくないと思ってしまうのもね」

「あー。隠しておいたのに」

「あれだけで隠せたつもりかしら。お言葉を返させていただきますの。白々しい」

「うぐっ」

「それで、食べ放題に行ってみてははいかがかしら。
 こういう時はいろんなものを食べて吟味するほうが、いいものが出てきますの」

「創作料理じゃないんだけど……」

「しかし、湊は食べ放題にめったに行かないのでしょう?」

「うん」

「せっかくですし、この機会にいかがかしら」

「そうだね。ちょっと待って」

 湊はサイフを取り出す。残金を確認したところでケータイが鳴った。

「メールだ」

「うそっ。湊にメール友達が……」

「普通にいるって」

「『今日、豚汁大会をするので来て』だって。そっちにいく」

「うそっ」

 今まで月一のそれに誘われることはあっても、滅多に言ってないことを京は知っていた。

「『誰かいるの?』っと。送信」

 呆然としている京の横で、湊はライムに返信を送ろうをゆっくり打っていく。

「『ルークと、二人だけ』えっ、少な。いこ。京も行くよね」

「うん」

「『京も一緒にいく』っと。送信」

「よし、いこうか」

「う、うん」

 返事を渋る京。湊は気づかないわけがない。

「あの二人のこと苦手なの?」

「苦手といいますか……。二人揃うと……」

「まあ、そうだよね。行こっか」

「う、うん」

京が頷けない理由、それは湊もわかっている。だが、久々だったので、行く決意をしたのだ。