とは言え、くじ引きで平等に決められた配役について文句を言うわけにもいかず、私達は本番に向けて、週3回、放課後の2時間を練習に充てている。


劇に出る子もいれば、衣装やセットを作る子もいる。

役割は完全に分かれているけど、みんな平等に文化祭に向けて時間を費やしている。

このクラスのこういうところ、好きだなぁと思う。



「にしても宮城さんの監督ぶり、すごいね。演劇部の部長だっけ」


「そうそう。様になってるよね。将来のマカデミー賞監督だよ、きっと」


「確かに。御山さんも、マカデミー賞狙えるんじゃない?」


「なんでよ。塚田くんこそ」


「冗談。俺の棒演技見たでしょ」



昇降口で靴を履き替えながら、軽口を叩き合う。


……いや、軽口を叩きながら、お互い触れづらい部分をずっと避けている。



私も、塚田くんもわかっていてあえて触れない。

渡された脚本のラストシーンに盛り込まれた、キスシーンのこと。



一応、渡された時に抗議はしてみたんだけど……物語のロマンティックなラストには必要だとか、物語最大の見せ場だとか、そんな言葉を並べて呆気なく却下されてしまった。


塚田親衛隊、こういうときこそ出番なんじゃないの!?

早く出てきて、キスシーンなんて阻止してよ!


なんて思っても、うちのクラスからは現れず……。

どっちかっていうと、みんなキスシーンを期待している様子で、私と塚田くんは項垂れる羽目になった。