(……最初は、私の髪が恐ろしいんだと思ってたけど)
どうも、それ以外の感情も向けられていると気が付いたのはここ最近になってからだ。
「あの娘、よくもお世話役なんかに……」
「身の程知らずよね。あの翠様のお傍に居れるなんて……」
カヤの耳に、屋敷の者達が交わす恨みが籠った声が届いてくる。
そう。
大半は所謂『嫉妬』だった。
大輪の花のように美しく。(男だけど)
聡明さを感じる落ち着いた物腰に。(素の時は割と茶化した発言が多いけど)
圧倒的な占いの力で国の行く末を見定める。(実はまだ見たこと無いから良く分からない)
―――そんな翠は、男女問わず屋敷の者達の憧れの的のようだった。
そしてそんな翠の隣にいきなり現れた、得体の知れないカヤ。
(まあ勿論、妬心の対象になりますよね)
自分で言うのもなんだが、心の底から納得してしまう。
しかし、カヤが今の現実に対して文句を言える筋合いは到底ない。
そのため今のような目に合っても堪え、ひたすらに与えられた仕事を黙々とこなしていた。
台所に着いたカヤは、そろそろと入口から中を見やった。
広いその室内では、多くの女性たちがせかせかと動き回っている。
屋敷に勤める者や住む者は大変多く、女性達は昼夜交代制で大量の鍋の管理をしているのだ。
その女性たちの中からナツナを見つけたカヤは、必死に小さく手を振る。
しかし、仕事に集中しているらしきナツナは、それには気が付かない。
(……どうしよう)
困り果てたカヤが入口をうろうろしていると、
「邪魔だよ!退いた退いた!」
遠慮のない声が飛んできた。
振り向くと、恰幅の良い女性が立っていた。
両手いっぱいに野菜を抱えている。
カヤよりも一回りほど年上に見えた。
「す、すいません……」
慌てて退くと、その人は「誰かに用事かい?」と尋ねて来た。
優しい口調では無いものの、極普通に声を掛けられ、不意を突かれたカヤは焦りながら言った。
「あの、ナツナを呼びたくって……」
「ナツナー!お客だよー!」
カヤが最期まで言い終わる前に、その女性が大声で叫んだ。
それに気が付いたナツナが、鍋を混ぜる手を止めてこちらに来てくれた。
恰幅の良い女性は、カヤがお礼を言う前にさっさと行ってしまった。
「カヤちゃん!どうしたのですか?」
「ごめん、翠様の汁物がひっくり返っちゃって……お代わり貰える……?」
おずおずとそう言うと、ナツナは「勿論ですよー」と言って代わりの汁物のをよそいに行ってくれた。
申し訳無さで身体を縮こまらせながら、カヤはその様子を見つめた。
『――――本当に!?カヤちゃんが!?お世話役にですか!?』
数日前の、ナツナの驚いたような声が、ふと思い出される。
屋敷に連れていかれた次の日、カヤはナツナに翠様の世話役になった事を告げた。
彼女はそれはもう心底驚き、そして同じくらい喜んでくれた。
『翠様のお近くなら、きっと安全ですね』
そう言ったナツナの言葉には、素直に頷く事は出来なかったが。
「カヤちゃーん、持ってきましたよ」
弾むような声と共に、ナツナがお椀を持ってきてくれた。
「ありがとう。ごめんね、忙しいのに」
「いえいえー。ふふ、カヤちゃん、意外とおっちょこちょいさんですね」
そう言って可笑しそうに笑うナツナ。
カヤは屋敷内で嫌がらせをされている事をナツナにも翠にも言ってはいなかった。
唯一自分を心配してくれそうな2人に、不要な気遣いをさせたくなかった。
どうも、それ以外の感情も向けられていると気が付いたのはここ最近になってからだ。
「あの娘、よくもお世話役なんかに……」
「身の程知らずよね。あの翠様のお傍に居れるなんて……」
カヤの耳に、屋敷の者達が交わす恨みが籠った声が届いてくる。
そう。
大半は所謂『嫉妬』だった。
大輪の花のように美しく。(男だけど)
聡明さを感じる落ち着いた物腰に。(素の時は割と茶化した発言が多いけど)
圧倒的な占いの力で国の行く末を見定める。(実はまだ見たこと無いから良く分からない)
―――そんな翠は、男女問わず屋敷の者達の憧れの的のようだった。
そしてそんな翠の隣にいきなり現れた、得体の知れないカヤ。
(まあ勿論、妬心の対象になりますよね)
自分で言うのもなんだが、心の底から納得してしまう。
しかし、カヤが今の現実に対して文句を言える筋合いは到底ない。
そのため今のような目に合っても堪え、ひたすらに与えられた仕事を黙々とこなしていた。
台所に着いたカヤは、そろそろと入口から中を見やった。
広いその室内では、多くの女性たちがせかせかと動き回っている。
屋敷に勤める者や住む者は大変多く、女性達は昼夜交代制で大量の鍋の管理をしているのだ。
その女性たちの中からナツナを見つけたカヤは、必死に小さく手を振る。
しかし、仕事に集中しているらしきナツナは、それには気が付かない。
(……どうしよう)
困り果てたカヤが入口をうろうろしていると、
「邪魔だよ!退いた退いた!」
遠慮のない声が飛んできた。
振り向くと、恰幅の良い女性が立っていた。
両手いっぱいに野菜を抱えている。
カヤよりも一回りほど年上に見えた。
「す、すいません……」
慌てて退くと、その人は「誰かに用事かい?」と尋ねて来た。
優しい口調では無いものの、極普通に声を掛けられ、不意を突かれたカヤは焦りながら言った。
「あの、ナツナを呼びたくって……」
「ナツナー!お客だよー!」
カヤが最期まで言い終わる前に、その女性が大声で叫んだ。
それに気が付いたナツナが、鍋を混ぜる手を止めてこちらに来てくれた。
恰幅の良い女性は、カヤがお礼を言う前にさっさと行ってしまった。
「カヤちゃん!どうしたのですか?」
「ごめん、翠様の汁物がひっくり返っちゃって……お代わり貰える……?」
おずおずとそう言うと、ナツナは「勿論ですよー」と言って代わりの汁物のをよそいに行ってくれた。
申し訳無さで身体を縮こまらせながら、カヤはその様子を見つめた。
『――――本当に!?カヤちゃんが!?お世話役にですか!?』
数日前の、ナツナの驚いたような声が、ふと思い出される。
屋敷に連れていかれた次の日、カヤはナツナに翠様の世話役になった事を告げた。
彼女はそれはもう心底驚き、そして同じくらい喜んでくれた。
『翠様のお近くなら、きっと安全ですね』
そう言ったナツナの言葉には、素直に頷く事は出来なかったが。
「カヤちゃーん、持ってきましたよ」
弾むような声と共に、ナツナがお椀を持ってきてくれた。
「ありがとう。ごめんね、忙しいのに」
「いえいえー。ふふ、カヤちゃん、意外とおっちょこちょいさんですね」
そう言って可笑しそうに笑うナツナ。
カヤは屋敷内で嫌がらせをされている事をナツナにも翠にも言ってはいなかった。
唯一自分を心配してくれそうな2人に、不要な気遣いをさせたくなかった。