カヤは、翠と両手を繋ぎ合わせながら、再び眼下の堂々たる景色を見下ろした。
「ねえ、この国はとても綺麗だ」
明日も明後日も、そして百年後も。
トバリのような健やかな子供達のために、ずっとずっとこの景色が続くと良い。
「翠、よく見て。眼を逸らさないで。これが貴方の国だよ」
そのためにはきっと、この幸福な景色の守り人が必要だった。
何にも侵されない、強い心を持つ人が。
(ねえ、お願い)
どうかもう一度、その美しい焔で全ての人間の道標となって。
「俺の……国……」
確かめるように呟いた翠の双眸には、夕焼けが映りこんでいた。
小さな赤い灯は少しずつ勢いを増し、大きくなっていく。
消えかけていた激情を轟々と燃え滾らせ、どこまでも続く暗闇を照らす見事な火炎となって。
―――――迷いに満ちていた双眸が、再び強烈な光を宿す。
「……ごめん、カヤ。凄く自分勝手なこと言っても良いか」
翠は景色から眼を反らすと、カヤを見つめ直した。
ここ最近で一番強く、そして真っ直ぐな眼差しだった。
「ここまで連れてきてくれたのに本当に申し訳ないんだけど、俺、屋敷に戻るよ」
いつか見た迷いの無いそれと同じ。
そうだ、あの時もこうして心を揺り動かされた。
「それから……カヤも一緒に来てくれないか」
握り合う手に、ぐっと力が籠る。
「俺は俺の夢もカヤも諦めきれない。何が何でも絶対に切り開いてみせる。カヤと共に生きる道を、必ず」
そこには縋り付くようは弱々しさは一切無い。
翠本来の、しなやかな強さ。
「だからどうかその日を、俺の隣で見届けてくれないか」
私はこの人の何もかもを好きだけれど、きっとそんな所に一番惹かれたのだ。
「はい。貴方が望むままに」
返事するだけでは飽き足らず、その身体を両腕で抱き締める。
抱き締め返してくれた腕の強さが、酷く嬉しかった。
「明日の朝に発とう、翠。帰ろう。二人で一緒に」
(ああ、もうこの人は大丈夫だ)
絶対的にそう確信した。
二人は強く抱き合う。
取り戻した覚悟と、募る愛しさに任せ、固く、固く。
そんな二人の影を、夕日が最後の力を振り絞り、どこまでも長く伸ばしていた。
「わー凄い!星が降ってきそう!」
完全に陽が沈み夜になった頃、二人は木が開けた場所に寝床を確保して一夜を明かす事にした。
二人の隣では焚火が優しく闇夜を照らしている。
パチパチと炎が爆ぜる音以外は何も聞こえない、静かな夜だった。
「本当だな。村よりも綺麗に見えるな」
隣に寝転がる翠もまた、感嘆したように言う。
二人はそれぞれ旅用の厚めの衣に包まりながら、寝転がって夜空を見上げていた。
「出会った頃もさ、こうやって並んで星見たよねえ」
あれはまだ、翠とコウが同一人物だなんて全く知らなかった時だ。
作物を育てるための場所を捜していたカヤに、コウが森の中の土地を紹介してくれた。
あの時も綺麗な星空だったが、今日は更に綺麗だ。
「ねえ、この国はとても綺麗だ」
明日も明後日も、そして百年後も。
トバリのような健やかな子供達のために、ずっとずっとこの景色が続くと良い。
「翠、よく見て。眼を逸らさないで。これが貴方の国だよ」
そのためにはきっと、この幸福な景色の守り人が必要だった。
何にも侵されない、強い心を持つ人が。
(ねえ、お願い)
どうかもう一度、その美しい焔で全ての人間の道標となって。
「俺の……国……」
確かめるように呟いた翠の双眸には、夕焼けが映りこんでいた。
小さな赤い灯は少しずつ勢いを増し、大きくなっていく。
消えかけていた激情を轟々と燃え滾らせ、どこまでも続く暗闇を照らす見事な火炎となって。
―――――迷いに満ちていた双眸が、再び強烈な光を宿す。
「……ごめん、カヤ。凄く自分勝手なこと言っても良いか」
翠は景色から眼を反らすと、カヤを見つめ直した。
ここ最近で一番強く、そして真っ直ぐな眼差しだった。
「ここまで連れてきてくれたのに本当に申し訳ないんだけど、俺、屋敷に戻るよ」
いつか見た迷いの無いそれと同じ。
そうだ、あの時もこうして心を揺り動かされた。
「それから……カヤも一緒に来てくれないか」
握り合う手に、ぐっと力が籠る。
「俺は俺の夢もカヤも諦めきれない。何が何でも絶対に切り開いてみせる。カヤと共に生きる道を、必ず」
そこには縋り付くようは弱々しさは一切無い。
翠本来の、しなやかな強さ。
「だからどうかその日を、俺の隣で見届けてくれないか」
私はこの人の何もかもを好きだけれど、きっとそんな所に一番惹かれたのだ。
「はい。貴方が望むままに」
返事するだけでは飽き足らず、その身体を両腕で抱き締める。
抱き締め返してくれた腕の強さが、酷く嬉しかった。
「明日の朝に発とう、翠。帰ろう。二人で一緒に」
(ああ、もうこの人は大丈夫だ)
絶対的にそう確信した。
二人は強く抱き合う。
取り戻した覚悟と、募る愛しさに任せ、固く、固く。
そんな二人の影を、夕日が最後の力を振り絞り、どこまでも長く伸ばしていた。
「わー凄い!星が降ってきそう!」
完全に陽が沈み夜になった頃、二人は木が開けた場所に寝床を確保して一夜を明かす事にした。
二人の隣では焚火が優しく闇夜を照らしている。
パチパチと炎が爆ぜる音以外は何も聞こえない、静かな夜だった。
「本当だな。村よりも綺麗に見えるな」
隣に寝転がる翠もまた、感嘆したように言う。
二人はそれぞれ旅用の厚めの衣に包まりながら、寝転がって夜空を見上げていた。
「出会った頃もさ、こうやって並んで星見たよねえ」
あれはまだ、翠とコウが同一人物だなんて全く知らなかった時だ。
作物を育てるための場所を捜していたカヤに、コウが森の中の土地を紹介してくれた。
あの時も綺麗な星空だったが、今日は更に綺麗だ。
