「初めまして、貴女がカヤ様ですね」

カヤ達の所に辿り着くなり、少女は万遍の笑みでそう言った。

少女は近くで見ると、尚更に可愛かった。

雪のような真っ白な肌に、吸い込まれそうなほど大きな黒い瞳。

柔らかそうな髪には赤い髪飾が付いていて、その黒髪にとても映えていた。


「え?あ、は、はい……?」

その可憐さと、少女が自分を知っていた事に戸惑い、カヤは素っ頓狂な声を出してしまった。

そんなカヤとは対照的に、少女は品よく頭を下げる。

「唐突に申し訳ありません。私、桂の娘の伊万里と申します」

なんと。
桂に、こんな年の離れた娘が居たとは。


「は、初めまして」

動揺しつつも釣られて頭を下げた時、

「伊万里。風も冷えてきたし、そろそろ帰った方が良い」

翠が現れて、微笑み交じりにそんな事を言った。

普段通りの『翠様』に見えるが、先ほど見せたきまりが悪そうな表情を、カヤはしっかりと覚えていた。

あえて翠をじっと見つめてみるが、彼は伊万里に視線を送るばかりで、こちらを見ようとしない。

偶然なのか、はたまたわざとなのか。


「ほら、伊万里。これを着なさい」

やがて追いついてきた桂が、自分の上着を伊万里の肩に掛けた。

「まあ。ありがとうございます、お父様」

花のように笑った伊万里に、皺の刻まれた桂の目尻が緩んだ。

審議の時に見せた厳しい顔付きとは正反対だ。

まあこんなに可愛い娘が居たら、そんな顔になるのも無理はない。

そんな事を考えていた時、やや遅れてタケルも追いついてきた。

が、こちらも翠と同様にカヤと視線を合わせようとしない。

それどころか分かりやすく気まずそうな表情を浮かべていた。

タケルは翠ほど器用に感情を隠せないのだ。


不自然なほどカヤを見ようとしない二人の様子を探っていると、伊万里が無邪気に口を開いた。

「カヤ様。是非とも新参者の私に御指導賜りますようお願い申し上げますね」

「……え?新参者?ご指導?」

何のことか分からずキョトンとすると、彼女は口元に手を当てて、可愛らしく首を傾げた。

「あら、もしやまだお聴きになられていないのですね。私、翠様のお世話役の任を頂戴したのでございます」


くらり、と。眩暈がした。

足元が大きく揺れて、危うくよろめきそうになる。

するすると血の気が引いていって、冷たくなった唇は麻痺して動く事を放棄した。


(世話役……翠の……?)

あり得ない。だってそんな事をしたら、翠が男だとこの子に悟られてしまうかもしれないのに―――――



「いや、まだ決定ではないのだがな」

すぐさま口を挟んできたのは翠だった。
彼らしからぬ言葉の割り込ませ方を、不自然に感じた。

まるで、何か焦っているような。