「え」
数回、目を瞬かせる。
――――此処は、砦じゃない。
自覚した刹那、カヤに圧し掛かっていた誰かの身体が、ずるずると地面に崩れ落ちた。
「ミ……ミナトッ……!?」
地面に項垂れる見知った姿に、カヤは木刀を取り落とした。
「ミナト様!」
仰天したようなヤガミも、焦った様子で近づいてくる。
「ごめっ、ごめんミナトッ……!わ、わたし……わたし……」
慌ててしゃがみこみ、腹を抑えるミナトの背中を必死に撫でる。酷く混乱していた。
信じられない。目の前に、確かにハヤセミが立っていたように見えたのだ。
ドク、ドク、と心臓が早鐘を打っていた。
頭がくらくらして、考えに集中出来ない。
一体何が起きたのだ。
どうして。どうして自分は、ミナトの腹を突き刺そうとしてしまったのか。
(確かミナトと向き合ってて……)
そうだ。その内に、何故だかハヤセミが目の前に立っているような気になったのだ。
ミズノエはもう一度殺されて、ハヤセミは血の海を踏み越えていって。
そしてカヤは、ミズノエの遺体から剣を抜き取って、あの男へ復讐をしに――――
(ち、がう)
慌てて自分を否定する。
(あの時、私はそんな事してない)
どこから記憶が可笑しくなってしまったのか。
カヤは、あの血の海で呆然と座り込んでいただけのはず。
ハヤセミを殺そうなんて、あの時はそんな事、思えもしなかった。
――――否、思えもしなかっただけで、本当は?
(思えたなら、私は殺したかった?)
嗚呼、そしてその憎悪を、あろう事かミナトにぶつけてしまったのだ。
「だ、いじょうぶだ……」
苦しそうに眉を顰めながら、ミナトがどうにか口を開いた。
木刀とは言え、思い切り腹に突き刺さったのだ。
痛いなんてもんじゃないはずだ。
カヤは泣きそうになりながら、更にミナトの背中を撫でた。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ……お、お腹、穴空いてないっ……?」
「空くか阿呆、木刀だぞ……鳩尾に入っただけだっつの……」
そう言ってミナトはゆっくりと立ち上がった。
痛そうに腹をさすっているものの、確かに血は出ているように見受けられない。
「よ、よかった……」
安心したら力が抜けて、カヤは思わずその場に座り込む。
力無く項垂れていると、上からヤガミの声が降ってきた。
「カヤ様……そんなにミナト様の事がお嫌いなのですか……?」
一瞬聞き間違えでもしたのかと思い、顔を上げたカヤは固まった。
こちらを見下ろすヤガミの眼の、なんと余所余所しい事。
こんな風に彼に見つめられたのは初めてだった。
「き、嫌いなんかじゃっ……何故ですか!?」
仰天しすぎたカヤは、思わず立ち上がっていた。
数回、目を瞬かせる。
――――此処は、砦じゃない。
自覚した刹那、カヤに圧し掛かっていた誰かの身体が、ずるずると地面に崩れ落ちた。
「ミ……ミナトッ……!?」
地面に項垂れる見知った姿に、カヤは木刀を取り落とした。
「ミナト様!」
仰天したようなヤガミも、焦った様子で近づいてくる。
「ごめっ、ごめんミナトッ……!わ、わたし……わたし……」
慌ててしゃがみこみ、腹を抑えるミナトの背中を必死に撫でる。酷く混乱していた。
信じられない。目の前に、確かにハヤセミが立っていたように見えたのだ。
ドク、ドク、と心臓が早鐘を打っていた。
頭がくらくらして、考えに集中出来ない。
一体何が起きたのだ。
どうして。どうして自分は、ミナトの腹を突き刺そうとしてしまったのか。
(確かミナトと向き合ってて……)
そうだ。その内に、何故だかハヤセミが目の前に立っているような気になったのだ。
ミズノエはもう一度殺されて、ハヤセミは血の海を踏み越えていって。
そしてカヤは、ミズノエの遺体から剣を抜き取って、あの男へ復讐をしに――――
(ち、がう)
慌てて自分を否定する。
(あの時、私はそんな事してない)
どこから記憶が可笑しくなってしまったのか。
カヤは、あの血の海で呆然と座り込んでいただけのはず。
ハヤセミを殺そうなんて、あの時はそんな事、思えもしなかった。
――――否、思えもしなかっただけで、本当は?
(思えたなら、私は殺したかった?)
嗚呼、そしてその憎悪を、あろう事かミナトにぶつけてしまったのだ。
「だ、いじょうぶだ……」
苦しそうに眉を顰めながら、ミナトがどうにか口を開いた。
木刀とは言え、思い切り腹に突き刺さったのだ。
痛いなんてもんじゃないはずだ。
カヤは泣きそうになりながら、更にミナトの背中を撫でた。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ……お、お腹、穴空いてないっ……?」
「空くか阿呆、木刀だぞ……鳩尾に入っただけだっつの……」
そう言ってミナトはゆっくりと立ち上がった。
痛そうに腹をさすっているものの、確かに血は出ているように見受けられない。
「よ、よかった……」
安心したら力が抜けて、カヤは思わずその場に座り込む。
力無く項垂れていると、上からヤガミの声が降ってきた。
「カヤ様……そんなにミナト様の事がお嫌いなのですか……?」
一瞬聞き間違えでもしたのかと思い、顔を上げたカヤは固まった。
こちらを見下ろすヤガミの眼の、なんと余所余所しい事。
こんな風に彼に見つめられたのは初めてだった。
「き、嫌いなんかじゃっ……何故ですか!?」
仰天しすぎたカヤは、思わず立ち上がっていた。
