「天国、か……」

 一番上の段ボールを手に取る。いつものようにお弁当だ。毎度贅沢に松花堂弁当にしている。重厚感のある正方形の箱が十字に仕切られていて、その各空間に陶器の小さなお皿があって、その上に季節の料理が品よく盛り付けられている。炊き立てほかほかご飯付き。

(まあ、だって、代金は必要ないって言うし……)

 どうして……なのかはわからない。無料? どうして? ここは、どういう仕組みで成り立っているのだろうか。

 そもそもここは、いったいどこなのだろう。

 牧場のようなこの景色を、アマト運輸のトラックが、どこかへと走り去る。ブロロロロと排気ガスを吐き出す音が、明け方の青く静謐な空気を、なんだか懐かしく震わせていた。

 律歌はテーブルに、その豪華なお弁当を二つ並べ、熱いお茶を淹れた。北寺はまだ起きてこない。

(さて、どうしようかしら)

 一日に行動できる量は限られる。時間を無駄にはしたくなかった。北寺をあんな風に起こしてはいるが、でも、強要してはいけないという自制心は持っているつもりだ。ここは、誰にも強制されないところだよ――という彼の言葉に救われた過去だけは、律歌も忘れてはいなかった。

 窓の外、辺りはまだまだ薄暗く、台所の蛍光灯はそれに対して少し強くて、律歌の影を濃くする――強くあろうという決意とともに「いただきます」と小さく口に出して手を合わせ、一人、箸を取った。

(今日の、予定を立てなくちゃ)

 たとえ自分一人でも、できることをやっていこう。
 物音がした。心が弾んで、手が止まる。律歌は階段の方をじっと見つめた。寝ぼけたような足音を鳴らしながら、「……おはよう」と、北寺が降りてきた。瞼が半分開いていない目、ほうぼうにはねっかえる寝ぐせ。私とまた一日を始めることを選んでくれて、それでこうしてむにゃむにゃと降りてきてくれた。律歌は一口目を口に運び入れて言った。

「おっそーい! もー!」