少し前の、まだ心が元気になる前の話の続き。


 夢の中でごーりごーりという音が聞こえてふと目を覚ますと、北寺が冷凍庫を開け、ごーりごーりと音を立てて白っぽいものをスプーンで混ぜていた。

「ああ、ごめんね。起こして」

 北寺が手を止め、冷凍庫に何かをしまう。

「それ、もしかしてアイスも手作りするの?」

 自家製のアイスクリームだ。

「うん。だって、天蔵《アマゾウ》のアイスはカチコチに固いじゃん。なめらかなやつ食べたくない?」
「食べたい」

 凍りかけたアイスクリームに空気を含ませるのだという。

「寝てていいよ」
 と北寺が、スプーンを水で流して静かに洗っている。

「それ、やめないで」
 と律歌は言った。
 なめらかなアイスクリームが食べたかったし、その音を聞いていたかった。とても幸せな、心満たされる音だった。