渚が話しているのに、それすらも入ってこないくらいに落ち込んでいる私を「そうだ」と言って連れていったのは焼肉屋さん。


「こういう時はいつも食って発散するだろ? 俺の奢りだ」

「え、ちゃんと払うよ。ここって高いし」

「いいんだよ。今まで頑張ったご褒美」


今月は金欠だ、とか言ってたくせに大丈夫かな。


少し心配になったけど、せっかく奢ってくれるって言うんだから甘えることにした。


ああ、やっぱり好きだ。


こういう優しいところも、豪快に焼肉を食べる姿も。


私に勇気があるなら、今からでも言えたのかな。


そうは思ったけど、やっぱり今の私にはできなかった。


会計を済ませようとした時、渚は少し慌てた様子だった。


「しまった! お金足りないや」


案の定、私もお金を払うことになったけど、今日こうやって焼肉を食べに来たことはきっと、私の一生の宝物になる。