「お前に関係ないだろ」


葵のまとう空気のように、先輩の周りの空気もピリッとしたのが分かった。


葵……?


どうしちゃったの?


私はいつもと違う様子の葵に恐怖を覚えた。


「関係ありますよ。その子、俺の彼女なんで。手出さないでください」


それを聞いた先輩は、舌打ちをしてどこかへ行ってしまった。


か……彼女?


「あお──……」


 おずおずと葵の方を見ると、葵は胸に手を当ててふうっと息を吐いていた。


その姿は、さっき恐怖を覚えたばかりだと言うのにそれを思い出せないほどにいつも通りだった。


さっきのは夢だったのかと思うくらいに。


「ごっごめんね、彼女とか言っちゃって。ああでも言わないと先輩どっか行ってくれないと思って」


「…………ん」


嘘が、本当だったら……よかったのに──。