「若音(わかね)、準備できた?」



「まだ!待って……」



あの時と変わらない、ふわふわの茶色い髪に、二重の大きな目と平行眉をした彼が、私を急かす。



「遅い!」



ごめんねぇ!と半分叫びながら、慌てて準備をすすめる。



えっと……洋服は、きちんとしてるよね?うん、おっけー。



それから、手紙も大丈夫。くしゃくしゃになってない。安心。昨日、何度も読む練習したもん。



あとは……。



「行こー!」



「うんっ」



1週間前に彼から渡された婚約指輪を指から外し、ぎゅっと握りしめる。箱に丁寧にしまい、カバンに入れる。あとで、2人の前で開けてみせるんだ。



存在を確かめたくて、上からなぞるように触れた。



2人の家を出て、並んで道を歩く。



「お父さんとお母さんに報告するの、すっごく照れる……」



「同じく」



私たちは見つめ合い、笑みを零した。