だからってときめいたりなんかはしないけど、と内心で呟きながら化学準備室を後にする。
「じゃあ、私は帰るね」
シャーペンを返してもらうという一番の目的を果たしたのだから、もう化学準備室にも佐和くんにも用はない。
昇降口へ向かうため、くるりと背を向けると。
「っ!」
誰かが私の肩をガッと掴んで引き留めた。
誰か、じゃない。佐和くんだ。
だって、この場には私の他には佐和くんしかいないのだから。
「今から一人で帰んの?」
「……え?」
「だったら仕方ねえから────」
何か言いかけた佐和くんを首を横に振って遮った。
「ううん。ハルが待ってるから、一緒に帰るよ」
私の言葉に佐和くんは言葉を止めて目を見開く。
遮ってしまったせいで、佐和くんが言いかけていた何かを聴き逃してしまった。
一体何の話だったんだろうか。
きっと、大したことではないだろうけれど。
「……仁科、ね」
ぽつりと呟いたかと思えば、
佐和くんはあっそ、と顔を背けた。



