トロいって、なに。
……いや、100歩譲ってそれはいいとして、“手伝うから” ってなに!?
たとえ1000歩譲ったとしても、そこは許せない。
手伝ってあげているのは私の方だ。
「……ほんと、大嫌い」
「はいはい」
軽くあしらわれてムッとする。
不毛な争いを避けるため、これ以上言い返すのはやめる。
……さすがにわかってきた。
佐和くんに噛み付いたって無駄だって。
ムカムカする気持ちを沈めるために、ただ黙々と資料を並べることに集中していると。
「久住さんってさ」
「……?」
「具体的に、俺のどこが嫌いなの」
こちらをちらりとも見ないで、独り言みたいに佐和くんは呟いた。
佐和くんの嫌いなところ。
「校則違反なのにピアスしているところ。女遊び激しいところ。口調がすぐ乱れるところ。自分の仕事を他の人に手伝わせるところ。口悪いし、嫌味っぽいし、馬鹿にしてくるし、女の子のこと “おまえ” って呼ぶなんてありえないし、ましてや “怪獣” とか────」
「わかった、もういい」
流れるようにすらすら述べていく私を、最終的には佐和くんが片手で制した。



