「っ、侑吏くん!」
その背中に呼びかける。
すると、振り返った彼は驚いたように目を見開いた。
「おまっ、は? なんで……、つーか雨大丈夫なのかよ」
既にずぶ濡れの私なのに、雨がかからないように傘を差し出してくれる。
図らずとも、相合傘。
「あのっ、侑吏くん」
「なに?」
ふー、と息を吐いて呼吸を整える。
心臓が口から出そうだ。
侑吏くんの綺麗な色の瞳がまっすぐこちらに向いている。
すう、と息を吸って。
「……す」
「……?」
「す、」
好き、の二文字が上手く出てこない。
破裂しそうだ。
す、す、と繰り返す私に侑吏くんは怪訝な顔をして。
「花乃。ちゃんと喋ってくんなきゃわかんねーんだけど」
「う、」
それもそうだ。
今度こそ腹をくくって、ええい、と勢いに任せてみる。
「好き!……なの」
「……は?」
侑吏くんが目を見開いた。
「好き、です」
……言ってしまった。
たぶん、世界で一番不本意な好き。
侑吏くんのことを好きになってしまったのも、今告白してるのも、全部、ぜーんぶ不本意だ。
こんなはずじゃなかった。
でもね、きっと恋って不本意に落ちるものなんだ。
だから、ひとは恋に悩んで惑わされる。
思い通りになんてなってくれないんだと、身をもって思い知った。



