そうこうしているうちにエレベーターの扉が閉まり、密室にふたりきりという状況がうまれる。



私もハルも必要最低限以上に口を開こうとしなくて。
しん、と静まり返る。



エレベーターが上昇する音だけが響く空間。
息をするのさえ、ためらってしまうほど。



永遠のように長く感じた沈黙ののち、エレベーターがぴたりと止まった。

4階。ハルが降りる階だ。




扉が開くと、張りつめた空気がほどけたような気がした。




「……じゃあ、またね」




おやすみ、と手を軽く振って。
降りるハルを見送る。



肩の力が抜けて、ほっと息をついて。
エレベーターの扉が閉まって、ハルの姿が見えなくなる────はずだったのに。




「っ!?」




扉が閉まりかけた瞬間、伸びてきた腕が強引に私の手首を捕らえて。
ぐい、と体ごと引かれる。


気づけばエレベーターの外。
背後に扉が閉まる機械音がした。




「待っ、ハル、私5階……っ」

「知ってる」




わかっているなら、どうして。
明らかに動揺の色をまとった私の表情を一瞥して。


ハルは微かに顔を歪める。
だけど、何も言わないままずんずんと歩き始めた。


歩幅が大きい。速い。
遠慮のない歩き方。
いつも気をつかってくれるハルだとは思えないような。


手首をしっかりと掴まれているから、私もその後を追うしかない。