『……付き合おう』
もう一度、頷く。
『ハル、』
初めて呼び捨てで呼んだ。
ハルが私の彼氏になったという、証明のようなものだった。
ハル、私、他になにもいらないから。
『……ひとりに、しないで』
『約束する』
あの頃は長かった、私の髪。
するり、と一束すくい取ってそこにハルは口付けた。
二度目の約束、ハルは私のそばにいることを誓った。
そして母さんの葬儀が終わって、何日も、何週間も過ぎて。
それでも、父さんは私に母さんを見ていた。
その度に打ちのめされた。
と、同時に可哀想だとも思った。
父さんは、きっとずっと失ったものに囚われ続けるのだから。
そして、私も決めたことがある。
────弱いところはハルにしか見せない。
わかるはずがない。
ハル以外に、私の気持ちなんて。
ハルだけが、そばにいればいい。
雨と病院の空気が苦手になった。
打ちひしがれるほどの孤独を思い出すから。
私が消えた瞬間を、思い出すから。
だけど、ハルはそばにいてくれる。
だから、もういいの。
ハル以外、どうだっていい。
実際、この三年間、ハルの隣には私が、私の隣にはハルが必ずいた。
一つ目の約束も、二つ目の約束も、ずっと、ずっと消えないままだ。
この先も、ずっとそうだと思っていた。
『別れよう』
あの一言を聞くまでは、ハルも同じだと思っていた。



