『佳子。……よかった』



まるで、死刑宣告だった。
父さんの声が耳に届いて、そして、父さんが微笑んだのがわかって。


この人の中で “久住花乃” は消えたのだと知った。



父さんは母さんが大好きだった。
結婚してからも、ずっと恋をしていた。


きっと誰よりも大事だったから、そんな母さんがもういないということを父さんは受け止めきれなかった。



父さんは私に母さんを重ねたんだ。
そして、父さんは私を母さんにした。



私は、いなくなった。




────きっと仕方のないことだった。父さんにとって、必要なことだった。

そうでもしないと立っていられなかったのだろう。




だけど。




『……っ』




耐えきれなくなった私は病室を飛び出した。
息が上手く吸えない、苦しい。
でも不思議と涙は出てこなかった。



母さんを失って、私を失った。
一気に空っぽになった。



大きすぎるものを一気に失くして、足元から崩れ落ちるような感覚だった。
爪先まで冷えていく。



病室の扉を後ろ手に閉めると同時に、膝から崩れ落ちた私に慌てて駆け寄ったのは病室の外で待っていたハルだった。




『っ、花乃ちゃん?』




ハルが私の名前を呼んで。
ただ、それだけのことで、涙がぼろりと落ちた。