それは、母さんが亡くなった日のことだった。



────ただし、彼女の死は急なことではなく。

最初に母さんの病気が発覚して入院が決まったのは、それよりも一年前、私たちが中学一年生のときだ。



それから検査と治療を繰り返す日々が続き、そんな中でも母さんは明るく朗らかだったけれど、私は薄々気がついていた。


時とともに痩せ細っていく母さんの命は、もうそんなに長くはないんだと。
それから、もうずっと、覚悟はできていた。




母さんが他界したのは翌年の夏。

それは、奇しくもまた雨の日だった。




いつも通り、学校で授業を受けていた私のもとへ、父さんから先生を通して連絡が入ったんだ。

母さんが危篤状態だと聞いて、私とハルは学校を飛び出して病院へ向かった。



そのときはどんよりとした曇り空で、雨が降り始めたのは病院に着いてすぐだった。



私は病室に駆け込んだけれど、ハルは病室の外で待っていることになった。


中に入ると、父さんが母さんのそばで固唾を吞んで見守っていた。



主治医の先生と看護師さんたちが何か難しい用語で喋っていて、その内容はよくわからなかったけれど、ここが母さんにとって峠なのだということだけはすぐに悟った。




シミひとつない白い部屋。
薬品の独特の匂い。



母さんと主治医の先生はしばらくの間、苦闘していた。
そして、長時間の闘いのその末に母さんは息を引き取った。


ドラマみたいに何かを言い残すことはなくて、最期はまるですうっと眠りにつくようだった。穏やかな顔で、ほんとうに眠っているみたいだった。