そんな “普通” が何年も続いて、私までこれが普通なんだと麻痺してきた頃に、その “普通” はあっけなく崩壊したんだ。
7年前、私たちが小学四年生のとき。
雨の音がやたらとうるさい、とある夜のことだった。
『助けて……!』
あのときのハルの声は今でも忘れられない。
悲痛な声。
我が家に助けを求めて駆け込んできたハルの服に、散っていた赤は一体どちらのもの、だったのだろうか。私は未だに知らない。
母さんが『花乃は知らなくていいことよ』と言ったからだ。
ハルが我が家にずぶ濡れの状態で血相を変えて飛び込んできた、そのすぐ後に、パトカーと救急車のサイレンの音が住宅街に響き渡った。
雨音とサイレンが入り混じって騒がしい、悪夢みたいな夜だった。
あの夜、ハルは、あの広い家に一人になった。
ハルの両親があの家からいなくなって、ハルの面倒を見ることになったのは、彼のおばさんにあたる人だった。私は数回しか彼女の姿を見たことがない。
事実として、彼女は数回しかあの家を訪れなかったから、それも当たり前のことだった。
ハルは、本当にひとりぼっちだった。
あの家からは温度がなくなって、それでもハルは一人でそこにいた。
『平気だよ!』
と私ににこにこ笑って気丈に振舞ってみせたハルは、全然平気じゃなかった。
気づかぬうちにぼろぼろになったハルは、ある日、崩れ落ちた。



