存外、弱々しい声になってしまった。

だけど、もういい。
佐和くんにどう思われようが関係ない。



佐和くんにとってそのシャーペンなんか、無数のうちのひとつだろうけど、私にとっては違うんだ。




「返して、ください……」




プライドをかなぐり捨てて下手に出た私に、佐和くんはへえ、と少し目を見開いて。




「そこまで言うなら、返してあげる」


「っ!」



ぱっと顔を上げると、佐和くんは「ただし」と付け加えた。




「俺、今日の放課後ニッセンに化学準備室の整理頼まれてるんだよね。それ手伝ってくれたら、返す」




あまりのジコチューっぷりに絶句する。




ニッセンこと新田(にった)先生は化学の先生であり私たちのクラスの担任。


そんなニッセンがあえて佐和くんに頼みごとをしたのは、彼が、学級委員長だから。




学級委員長の仕事なのに、ひとに手伝わせるんだ。……しかもひとの大切なものを人質にして。





「どうする?」




こてん、と首を傾げた佐和くん。

どうするもなにも、はなから私にはひとつの選択肢しか残されていない。