「それ、先食ってて」



先に買っておいた焼きそばのパックを指して侑吏くんが言う。
道の脇、段になっているところにうながされるままに座った。


侑吏くんは「ちょっと買ってくる」と告げて、屋台の方へ戻って行く。

その後ろ姿をぼんやりと眺めながら、焼きそばのパックにかけられていた輪ゴムを外した。


ソースの匂いが鼻腔をくすぐる。割り箸をぱきんと割って、口に焼きそばを放り込んだ。



……美味しい。だけど。
お腹は空いているはずなのに、箸が進まない。


先ほどの寒気がまだ、こびりついて離れてくれない。喉の奥がひりついている。


そのまま、ちびちびと焼きそばをつまんでいると。



「花乃」

「っ、侑吏くん」



侑吏くんが帰ってきた。



「何買ってきたの?」

「りんご飴」

「……ふ、」



りんご飴という可愛らしいワードが侑吏くんに不似合いすぎて、思わず笑ってしまう。
そんな私に侑吏くんは眉をひそめた。

お祭りでりんご飴って、ベタだなあ。



「つーかおまえ、焼きそば全然減ってねーじゃん」

「あー……うん、ちょっと今そういう気分じゃないっていうか」

「は? なんだそれ」



悪態をつきつつ、侑吏くんは私に何かを差し出した。



「じゃあ、それ食えば」

「え?」


条件反射で受け取って、まじまじと見つめる。

つやつやの赤くて丸い、ガラスみたいな、りんご飴。