なんとなく、男の子の字は乱雑なイメージがあるけれどそんなの偏見だよ。侑吏くんの字の方がずっと綺麗。ちょっと悔しい。
あら探しするべく、侑吏くんのノートにもう一度視線を落とす。
「……あ」
あることに気づいて思わずもれた声。
侑吏くんが怪訝そうに眉を寄せたから、慌てて首を横に振った。
「ううん、何でもない」
そう口にしつつ、指先でそっとなぞった。
侑吏くんが書いた文字列の右端。
すべての文章の語尾が下に落ちている。
右肩下がりに文字を並べる癖があるんだ。
思わず口元が緩んだ。
右上がりはよく聞くけれど、右下がりの癖は珍しい。
きっと侑吏くん自身にも自覚がないほど些細な癖で、だけどなんだかその文字列が急にかわいく見えた。
この小さな癖、他に誰か気づいた人はいるんだろうか。それとも、私だけ?
「おい、手止まってんぞ」
「っ、止まってないし!」
「口より手を動かせ」
「……横暴」
上から目線の物言い、相変わらずの侑吏くん。
字が心を映し出すなんて、絶対嘘じゃん、と独りごちた。



