「やっぱ何でもない」
何でもないって顔じゃないのにそんなことを言う。
聞いたってきっと答えてくれないから、詮索するのはやめた、けれど。
「……あの、侑吏くん」
「あ?」
「怒ってる……?」
「別に」
「怒ってるよね」
「怒ってない」
投げやり。
ぶっきらぼうな言い方。
「絶対怒ってるじゃん!!」
まくし立てた私に、侑吏くんはとびきり面倒そうに顔をしかめたあと。
「怒ってねーよ」
「だって、」
「怒ってないって何回言えば伝わんの? あー、馬鹿だから一回じゃわかんないか」
鼻で笑って、私を見下ろした。
見覚えのある、意地悪な笑み。結局はいつも通りの侑吏くんで。
むっかつく……!!
様子が変だと思ったのは、杞憂に過ぎなかったらしい。馬鹿馬鹿しいにも程がある。
まんまと苛立ちを煽られる羽目になった私は、その後はせっせと手を動かすことに専念した。



