静かな声が、逆に苛立ちを含んでいるように思えて、無意識のうちに肩がびくっと震える。
「これ、って」
侑吏くんの言葉が何を指しているかがわからない。心当たりもない。
目を白黒させる私に、侑吏くんは。
「ネクタイ」
言いながら、私の首元のそれをくっ、と再度引いた。
それで首が締まる、なんてことは流石にないけれど、息が詰まりそうだ。
だって、侑吏くんが。
怒ってる? 苛立ってる?
わからないけれど、侑吏くんのまとう空気が支配的な圧を持っている。
「……っ?」
胸元のネクタイに視線を落として、戸惑う私に侑吏くんは目を細めた。
「……男物────っつうか仁科の、だよな?」
「え、」
「俺のこと、あんだけ貶しておきながら、おまえも結局は同じことしてんじゃん」
「っ、違……っ」
胸元のネクタイ。
侑吏くんがぐしゃりと握り潰したせいで、しわが寄っている、それ。
今、気づいた。
侑吏くんの言う通りだ。
紺地にピンクとグレーのストライプ、意識しなければ気づかない程度の柄の違い、だけど、それは確かに────男物で。
そして私が誰かとネクタイを取り違える、なんてことがあるならば、その相手は絶対的に。