きのう、って。
昨日……?


きょとんとした私を見て、侑吏くんが「チッ」と小さく舌打ちした。


急に何。怖いんだけど……と警戒心を抱きつつ侑吏くんの次の言葉を待っていると、予想に反してそれは柔らかな声色で落とされた。



「今日はもう大丈夫なのかよ」

「え?」

「体調」

「大丈夫、だけど……。なんで、侑吏くんが」



頭の中がはてなでいっぱいになる。


侑吏くんは、知らないはず。
昨日私を助けてくれたのは、ハルで。


私が倒れたことを知っているのも、ハルだけで。
だって、ハルが昨日そう言ってたもん。




なのに、『今日はもう』なんて知ってるみたいな言い方。




困惑する私を見ても侑吏くんは何も言ってくれなくて。
何事もなかったみたいに作業を続けるから、不思議に思いつつも私も紙の上でペンを走らせた。



紙を捲る音、キュッキュとペンが擦れる音、ホッチキスで綴じる音。
無機質な音ばかりが教室に響き渡る。



そこで、さっきから感じていた違和感の正体に気づいた。



今日、侑吏くんの口数が異様に少ないんだ。
いつもなら何か反応のあるタイミングでも、口をつぐんだままで。




侑吏くんは私と関わるときは大体不機嫌オーラをまき散らしている。
今日も絶賛不機嫌なことには変わりないけれど、いつものそれとは種類が違う気がした。