「いやあ、天才だよ花乃は。メガトン級に面白いわ」

「意味わかんない、はっきり言ってよ」




眉間に皺をよせてみせると、麻美はやっと軽口をたたくのをやめた。




「佐和くんを爽やかイケメンだと思い込んでたのなんて、花乃だけだよ」


「……え?」




口に運ぶ途中だったタコさんウインナーが、ぽとりと落下した。

幸いお弁当箱へホールインワン。




「佐和くんがマトモな彼女も作らずに女の子取っかえ引っ変えなんて有名な話だもん」




有名な、話……?

でも。




「私、そんなの知らない。聞いたことない」



首を横に振りながらそう言うと、麻美は堪えきれずに吹き出した。



「そりゃあ、あんたはね。花乃は入学する前からずっと、仁科くんのお姫さまだったんだからさあ」



“仁科くんしか見えてなかったでしょ”



麻美が付け加えるように呟いたその台詞に、ぐっと奥歯を噛み締めた。




「……まあ、それは今もか」



なにも言い返せない。

そうだよ。その通りだ。



私はまだ─────まだ全然。