「っ!? ちょっ、どういうことっ?」



投げかけられた言葉に思わず目を見開く。

間髪入れずに聞き返すと、佐和くんは私の持っているプリントを指差して。




「だから、それ。書いといてよってこと」


「な……っ、んで私が!! 佐和くんが書けばいいじゃん! こういうの適当に書くの得意でしょっ」


「俺は忙しいんだよ」




真顔でそう言い放ったかと思えば、佐和くんはすたすたと廊下を突き進んでいく。


慌ててその背中を追いかけた。




「どこ行くのっ? そっちは空き教室……」




佐和くんの足が向かう先は教室とは反対方向。

今は使われていない空き教室がいくつか並んでいるところ。



呼びとめた私に佐和くんはひらひらとケータイを振って見せた。


表示されていたのはLIMEのトーク画面で。




目に飛び込んできたのは、いくつも並んだピンクのハート。



ああ、『忙しい』って……そういう意味。

一瞬で理解して、眉をぎゅっと寄せた。




「そういうことだから」




私の反応などお構いなし。


わかった?と偉そうな口ぶりで言い残して、
佐和くんは空き教室のドアに手をかけた。



そのまま扉を開こうとした彼の手を、気がつくと引き止めていて。




「……どうして佐和くんは、そうやって女の子と遊ぶの」





真面目なトーンでそう尋ねた私に佐和くんはきょとんとする。




「えー。理由とか、別にないけど」




強いて言うなら、そうだなあ、なんて悪戯っぽく口角を釣り上げて。




「くっつくなら男より女の子の方がいいじゃん。柔らかいしあったかいしってだけの話」


「……それ、だけ?」


「それ以外に何があるの」




堂々と言い放った佐和くんに目眩がする。
住んでいる次元が違う。違いすぎる。


唇を噛み締めて嫌悪感をむき出しにする私を、喉奥で笑って。




「じゃあ、それ期日までによろしく」




ちゃっかりプリントは押し付けて、瞬く間に空き教室の向こうへ消えていった。


そんな、蜃気楼みたいな佐和くんにしばし呆然としたのちに。




「っ、この生意気……!」





一回地獄を見ればいいのに、と心の中で呪いつつその場を立ち去るのだった。