────なんて、調子に乗ったのがよくなかった。
「っ!」
欲張ってもうワンテンポ、速度をあげた瞬間。
足を思いっきり滑らせた。
それはもう、綺麗につるんと。
しかも後ろ向きに。
人って、回避できない危機的状況にあるとパニックよりも先に、なぜか冷静になる。
プールってこんなに滑るんだー、とか
あー、これは絶対痛いやつだ、とか。
コンマ1秒の間にいろんな言葉が頭の中で浮かんでは消えて。
足が完全に浮きあがる寸前、覚悟を決めて目をつむった瞬間。
「……死にたいの?」
低い声。
腰に回った誰かの腕。
あれ、前も同じような状況をどこかで────って。
「っ、佐和くん!?」
デジャヴを感じた私がうっすらまぶたを開けると、あろうことか視界は佐和くんのどアップだった。
慌てて体勢を立て直して、佐和くんを突き飛ばす。
ああ、思い出した。
デジャヴの正体は、化学準備室での一件だ。
あのときも確か、転倒しかけた私を、佐和くんが。
思い出して、苦虫を噛みつぶしたような表情をしていると、私に突き飛ばされた佐和くんも不機嫌に顔をしかめていた。



