「そろそろ帰らなきゃな。菜摘、たくさん引き連れてきてごめんな。」


お兄ちゃんが眉毛をハの字にして言う。


「ううん!……みんなにも、シュンくんにも会えて、私は嬉しかったよ!」


お兄ちゃんに続いて、病室を出て行く皆に向かって小さく手を振る。


私、ちゃんと笑えてるかな…?


「菜摘!」


一度病室から出た綾羽がドアから顔を出した。


「また、来てもいい?」


少し不安そうな綾羽に、私は笑顔を作る。


「うん!みんな、今日は、ありがとう!」


私の返事を聞いて、綾羽は優しく微笑んだ。

病室の外からは「やったあ!」とみんなの嬉しそうな声も聞こえる。


「シュンくんもありがとう」

「うん、また来るね」


ふわふわと視線を遊ばせて、ぐぐっと口角を上げたシュンくん。

声色こそは優しいけれど、俯きがちなその表情はやっぱり暗くて。


結局、一度逸らされたシュンくんの目は、みんなが帰るまでの間ずっと、一度も交わることはなかった。