次の日、お兄ちゃんは学校だからと、お見舞いに来てくれたお母さん。
リンゴを切ってくれるその姿に、鈴ちゃんを思い出した。
手術への恐怖が消えた訳じゃない。
記憶を失ってしまったら、と思うと、怖くて怖くて仕方がない。
でも、大翔と約束したから。
「…お母さん。」
「リンゴなら、ちょっと待ちなさいもうすぐ切れるから。」
料理は上手いけど、包丁使いはお世辞にも上手と言えるものではないお母さん。
さっきから、すごい集中力でリンゴの皮を剥いているけど、まぁ。でこぼこだ。
「あのさ。」
「ちょっと待ちなさいって。」
完全に、リンゴの催促だと思ってるお母さんはなかなか私の話を聞いてくれない。
「私、手術受けようかな」
ーーガシャン
私が、そう口にした途端、お母さんの手から包丁が滑り落ち、足元に転がった。