「…でも、菜摘と出会ってから、驚くほど世界が変わったんだ。

どうでもいいと思ってたこの世界が、突然輝いて見えた。」


これまで見た中で、一番の優しい微笑みだった。


「そのとき初めて、自分で生きたいって、思えたんだ。」


私は、何も言えないまま大翔を見つめた。

大翔は、少し屈んでそんな私と視線を合わせる。


「…僕は、病院の外に出た経験が少ないし、同世代の人ともあまり関わってこなくて。

こんなやつが言うのもどうかと思うけど。

…多分、菜摘のことが好きなんじゃないか。って思うよ。」


そう言って、初めて会ったときのように優しく微笑んだ。

私は、赤面することも忘れて呆然と立ち尽くす。


「私も……。」


勝手に口から出た、という表現が正しいくらいに、呆然としたまま私は呟いた。

そんな私に、大翔は驚いた顔をしたけど、しばらくして嬉しそうに笑う。


そして、未だ夢見心地の私を優しく引き寄せた。

抱きしめられている状況をぼんやりと認識した私は、
顔を真っ赤に染める。


「可愛いね。」


揶揄う訳でもなく、優しく呟く大翔。

やっぱり大人びていて、どこか余裕そうな彼に、
悔しくなった私は、大翔の背中に手をまわし、ギュッと強く抱き着いた。