「いい加減にしろ。何のつもりか知らんが、こっちはそんな茶番に付き合ってる暇はないんだ!」


元夫は声を荒げるが、賑やかな居酒屋では、あまり効果はない。


「注文くらいさせてくれてもいいじゃない、せっかちだな。」


わざとらしく、1つため息をつくと、私はメニューを閉じた。


「それで、ご用件は?」


「とぼけるのもいい加減にしろ。金は用意出来たのか?」


「まさか、まだあんな金額、本気で請求しようとしてるの?」


その私の言葉に、元夫は唖然とした表情で、こちらを見つめる。


「お金なんか、もうビタ一文払う気ないわよって言ったら、どうする?」


挑発的な私の言動に、元夫は怒りに満ちた表情で、私を睨んで来るが、私も負けじと睨み返す。


注文もせず、明らかに不穏な様子の男女に気づいた店員が、チラチラとこちらに視線を送って来る。


睨み合いにしびれを切らせて、口を開いたのは、元夫の方だった。


「そうか、交渉決裂ということか。では仕方がない。」


そう言うと、元夫は立ち上がった。


「例のモノは明日、お宅の会社に書留で発送させてもらう。楽しみにしてろ。」


「止めた方がいいと思うよ。」


「何?」


「だって、もう報告済だから。」


その言葉に、驚きの視線を向けてくる元夫。


「半年間、私が何にもしないで、手をこまねいてたと思って?見くびらないで欲しいな。」


「・・・。」


「当時の上司が今、取締役候補くらいまで行っててね。全部報告したんだよ、あなたに脅されてることも含めて。苦い顔はされたけど、5年以上前のことで、相手はとっくに退職してるし、会社に不利益を与えたわけでもないから、この件に関して会社としてはコメントしたり、処分することはないって、はっきり言ってもらったわ。」


「・・・。」


「嘘だと思うなら、ご自由にどうぞ。言っとくけど、今のこの会話も録音させてもらってるから。そのつもりで。」


結局、そのまま一言も発しないまま、元夫は店を出て行った。それを見届けた私はようやく、店員を呼ぶことが出来た。追加注文のビールの味は苦かった。