1週間後、私は再び、弁護士を訪ねた。


「ご主人とお話されたそうですね。」


「はい。」


「いかがでしたか?」


「夫の心は完全に私から離れてしまったことを痛感しました。今後の事は、先生にすべてお任せしたいと思います。ただ・・・。」


「ただ?」


「私は根本的に勘違いをしていたのかもしれません。」


「勘違い?」


「私の事がなくても、夫の心は既に、私になかったのかもしれません。」


その言葉に、一瞬驚いたように私を見た弁護士は、すぐに平静を取り戻すと私に聞く。


「なぜ、そう思われるのですか?」


「憎しみを感じないんです。」


「?」


「夫から私への憎しみが感じられないんです。愛する人に裏切られたら、その人を先生なら、どう思われます?私なら憎み、そして復讐したいと思うでしょう。なのにあの人は、私がなぜ浮気をしてしまったのか、理由を聞こうともしない。謝罪もいらない、慰謝料も求めない・・・。もうお前と早く離れたい、言葉はいろいろあっても、あの人からはそのメッセ-ジしか伝わって来ないんです。自分を正当化するつもりは、もちろんありません。でも、私への愛情など、夫にはとうになかったのかもしれません・・・。」


話ながら、徐々に俯いてしまう自分を意識する。そんな私を弁護士は見つめていたが、やがて口を開いた。


「私は弁護士です。ビジネスとして、今、お二人の件に携わっています。私は事実と法律に基づいて行動し、それ以外の憶測や感情を口にしたりすることは、許されることではないと考えております。ですが・・・。」


ここで一瞬、言葉を切った弁護士は


「今のあなたの言葉は、看過出来ません。」


と強い口調で言った。