狐につままれたような心地で、いま一花は圭介を待っている。
待ち合わせ場所に指定されたのは、会社が入っているテナントビルの一階のスペースだ。
当然四商デザインテックの者も通りかかる。二人でいるところを見られても、七村圭介は平気なんだろうか。

近づいてくる彼に、すぐ気がついた。
特別なオーラをまとっているように、七村圭介の姿は行き交う人の中で一花の視線をすぐに捉えた。

それ以上に、彼の視線と足取りはまっすぐ一花に向けられていて、そのためらいのなさが胸に迫る。
そんなに見つめないで、と内心つぶやく。

「お待たせ、行きましょうか」

「あ、はい」

通りでタクシーを拾って乗り込む。
「牛込柳町までお願いします」と彼が告げる。

七村圭介の行きつけの店。どんなところだろう。
ちょっぴり緊張している。それ以上にワクワクしている自分に気づく。