わたし、BL声優になりました

 声を掛け事務室へ入ると、赤坂が大量の段ボール箱を荷台に乗せて、運んでいるところだった。

「お帰り。うん、悪くないね」

 荷台を押していた手を止めて、ゆらぎの姿を一瞥し、満足げに頷く。

「何ですか、それは」

「黒瀬くん宛のファンレターやプレゼントだよ。これから仕分け作業をしないといけなくてね」

 微笑して、如何にも重たげな段ボール箱を持ち上げては、近くのテーブルへ移動させる。

 そして、ファンからの贈り物を、一つ一つ丁寧に取り出して確認作業を始めた。

「赤坂さんが作業するんですか?」

「そう。弱小事務所だからね。人手が足りないんだ。だから、時間を見付けては、ファンの皆さんからの贈り物の確認。万が一のことがあってはいけないから」

 万が一とはいわゆる、ファンレターの中にカッターナイフの刃が入っているとかだろうか。

 いや、それは古い気がする。
 じゃあ、プレゼントの中に盗聴機を仕掛けるとか?

「具体的なことを言うと、ファンレターに個人の連絡先が書かれている、とかかな」

 ゆらぎの表情を読み取った赤坂は、丁寧に解説する。

「ファンとの直接的な接触は禁止だから。白石くんも、これから気をつけてね」

「はい」

 なるほど。SNSが発達した昨今でも、ファンレターで個人の連絡先を教える人がいるのか。

 マネージャーさんって大変だなぁ。と、感心をする。

 ゆらぎは先ほど赤坂から寮を案内するのは、この確認作業が一区切りするまで、少し待って欲しいと言われた。

 しかし、今日の事務所初日の日程はほぼ済んでいる。後は赤坂から寮の案内を受ければ、日程は完了する。

 暇を持て余したゆらぎは、赤坂と共に黒瀬セメル宛の贈り物の選別を始めた。

「よし。今日はこれくらいでいいか。白石くん、手伝ってくれてありがとう」

「いえ、他にすることもなかったので。それより、この束凄いですね」

 ゆらぎが指差したのは、黒瀬宛のファンレターだ。手紙が分厚い束を成して、テーブルにいくつも並べられている。

「普段から大体このくらい手紙が届くんだ。白石くんもこうなれるように頑張ろうね。じゃあ、この手紙とプレゼントを黒瀬くんに届けに寮へ向かおうか」

「手伝います」

 赤坂がプレゼントの入っている段ボール箱を手にし、ゆらぎは大量の手紙の束を両手に抱えて寮へ向かった。