[菜の花畑に入日薄れ]

長月遥は自転車で湿地帯に赴いていた。

童謡や唱歌を思い出している。

たしか。

「菜の花畑に入日薄れ、か」

夕暮れ。夏だ。

(朧月夜の一節。
懐かしく思い出している)

月日が過ぎていた。
朧月夜という唱歌は、子ども時代に見たことや聴いたことが積み重ねるようだった。

(これは追想だね)

長月遥は水守市の野辺で記憶を思い出していた。イデアルや橘と出会い、リンネと出会った。

(わたしは彼ら彼女らに何をしてきたのだろうか)

植物研究会という組織を準備した長月遥は、その組織が崩壊するのを目の当たりにしたのである。

唱歌をスマホで流す。イヤフォンだ。
それは長月遥の一日の幾分かに過ぎない。