こんなの、いつものことだ。
いつものこと、じゃないか。
「なんでも――」
「おいコラ、柾樹っ!」
「っ……――は?」
唐突に、思考がさえぎられた。
鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどの大声でガラ悪く僕の名を呼んだのは、もちろん真宮じゃない。
いつも大声で周りに迷わ……存在を知らしめている真宮でさえも驚いた顔をして、声の主を見る。
「「田辺……?」」
なんで田辺が、僕の名前を?
いや、そもそもなんでこのタイミングでわりこむ?
もし今が当事者でなかったとしても、さすがの僕だって察しただろう。
“見守るぜ、空気”
みたいに、ピタリと止んだ教室内の声とか。
聞き耳立てている視線とか。
あんなに興味なさそうだったのに、ちょっとでも“修羅場”っぽくなりそうな雰囲気が生まれた瞬間、とたんに人の意識はこちらへ向く。
人の不幸は蜜の味、ではないけれど、とくに僕みたいないじりがいのある男子みたいなものは普段からなにかと笑いものにされることが多いのだ。
べつにそれに対して何か思うわけではないし、むしろ空気は読むものだと思っているが、これまでの経験上……それは、かくじつ。



