厄介なもんだな……恋、とかいうやつは。


方程式では表せない。

勉強したところで解ける問題じゃない。


気づいてみれば、それはいつだって僕の目の前にあった。

目の前にあったのに気付かないふりをしていた。


友だちじゃない。

恋人じゃない。


僕なんか、という言葉を頭につけて全てを否定していた自分が今になって可笑しくなってくる。


別に形はどうであれ、良いじゃないか。


ある意味こんなのも僕らしいかもしれない。


まあ気づいてしまった以上は、僕もこのままでは終われないけど。



「真宮」


「っ、え?」


「今日、一緒に帰ろう」



真宮の大きな瞳がさらに大きく丸くなる。


それからとても嬉しそうに「うんっ!」と頷いた彼女を見て、田辺もなにか察したようだった。


もう一度僕の名前を呼び、いやいや振り向いた僕に向かって口パクで「バーカ」と言うと、なにごともなかったかのように机に向かってしまった。


田辺の方がバカだよ。


心の中で「バーカ」と言い返して僕はなるべく平常心を保ったまま席につく。


「じゃあまた後でね!」と足音軽く自分の席へ戻っていく真宮の背中を見送りながら、授業の板書をするべくルーズリーフを一枚とりだしたのだった。