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「おい、本当に大丈夫なのかよ。ズカズカ行って捕まっても知らねえぞ。」


ーー関所から南に下ること約2キロ。

ベネヴォリ城下町を歩く私の横で、眉をひそめたシドが耳打ちをする。

目の前にそびえるのは荘厳な城。

屋根にはためく国旗が眩しい。


「レイシアちゃん、ここの国王と知り合いなのかい?」


「…まぁ。昔、ね。」


何となく言い淀んでランディの問いかけに答えたその時。遠くから何やら忙しない音が聞こえてきた。


ーーガラガラガラッ…!


ぱっ!と後ろを振り返ると、そこに見えたのは小さな馬車。装飾の施された小窓から、主人らしき“若い男”の声が響く。


「おい、そこの汚(きたな)らしい旅人!そこをどけ!僕の道を塞ぐなど、身の程知らずが!」


「あ…?」


ギロリ、と馬車を睨みつけるシド。本当にこの男は沸点が低い。

まぁ、“汚らわしい旅人”呼ばわりにムッとこない方がおかしいが。

あまりにも鋭い威圧感に「ひぃ!」と小物並みの怯え声が馬車から聞こえるが、私たちを蹴散らそうとした男は道を変える気はないらしい。馬車の向かう方角から見て、中に乗っている彼は城の者のようだ。

貴族らしい傲慢な態度にわずかに嫌悪感を出したランディは、大人の対応と言わんばかりにすごすごとシドを引っ張って道の端に避ける。

するとその時。共に避けようとした私を見た男が、馬車の中から、バン!と窓に張り付いた。

私を見つめるその瞳は、驚きでまん丸だ。


「…っ、レ、レイシア…?」