尚貴が大豪邸を出て愛里の近所に暮らし始めてからも、創作作業は一緒にやっていた。場所は尚貴の家だ。

 四畳一間という狭さに郡山も含め三人も集まっているともう身動きが取れないほどなのだが、各々持ち場についてさえいればギリギリ我慢ができる。

 尚貴は椅子に座ってデスクに向かい、愛里は自分で持ち込んだ座布団を敷いてちゃぶ台で漫画を描く。郡山はミニキッチンで夕飯や夜食を作ってくれたり、翌日の弁当の支度をしているのが常だ。

 尚貴の漫画道具は郡山に頼んで実家から持ってきてもらったので、その点は困らなかった。線画を手描き(アナログ)で行う愛里と違って尚貴は完全にデジタル漫画描きなので、液晶タブレットさえあればいい。便利な時代になったもので、場所を取らないのだ。

 郡山を通して実家から液タブを持ってこられたなら、同じように通帳も持ってこられないのかと愛里が聞いてみたところ、尚貴個人の貯金はなんと「ほぼ無い」のだそうだ。すべてクレジットカードで買い物をしていて、親が払っていたとか。そのカードはまだ止められていないかもしれないが、家出した以上は封印すると尚貴は宣言した。これからは自分の力で夢を目指すと息巻いている。

「だいぶ描けた。今日はここまでにしようかな」

 尚貴が伸びをしながら言う。愛里も手を止めて時計を見ると、もう十一時だ。

「おつかれさま。明日も早いもんね」
「うん。そうだね。エリンギちゃんは調子どう?」
「まあまあだよ。私もここまでにしようと思う」

 徒歩五分、車で一分の距離なので、寝る間際まで作業ができる。これは前の作業部屋にはない魅力だ。