雨の日は、傘を持たずに



ゆっくり届いたはずの言葉だけれど、その意味は理解し難いもので。彼の落とした言葉は矛盾や、ちぐはぐ。その言葉がやけにお似合いで。


雨だから傘の出番があるというのに、なんともおかしなことを至極当たり前のように言われて私の脳みそではその解釈にまるでついていけない。


少し遠慮がちに「……あの」と声をかければ、ふわり「はい」と心地のいい声音が返ってきた。


彼の言葉に質問してみる。



「傘を持っていればあなたは濡れなくていいんですよ」

「そうですね」

「……雨が、好きなのですか?」



少しの間を置いて歯切れの悪い「んー」という唸り声。両腕を組み、眉根を寄せて悩んでいる様子。


あれ、即答ではないんだ。と思った私は聞いたにも関わらずこの人は雨が好きな人だと勝手に決めつけをしていた。だって実際、雨の日に傘を持たずにずぶ濡れなのだから。



「雨はあまり好きではないです」

「え、あ、そうです……か」

「はい」



やはりこの人はちぐはぐだ。


“生憎”という言葉をチョイスした私は間違っていないじゃないか。と心の中だけで彼を責めてみる。


ひと言で言うなら、変な人。