なんとなく決まりが悪くて視線を逸らしていたら、倉橋さんが眼鏡を押し上げて私の顔をじっと覗き込んでくる。そして、突然関係のないことをつらつらと話し始めた。


「ドーパミンが分泌されると交感神経が優位になるので、身体が緊張、興奮状態になって血流が増え、顔が赤くなるんです」

「は?」

「そのドーパミンが過剰に分泌される要因は様々なんですが……」


なんでこのタイミングで理系話?と呆れる私に、彼女はこちらの心の中を読み取るかのように見つめたまま言う。


「要因のひとつに“恋”があります。今、綾瀬さんがちょっぴり赤くなっているのも、恋をしているからなのかなと」


核心を突かれ、ドキッとした私は無意識に頬に手を当てた。

私、今赤くなってるの? どうしてこういう類いのことだとすぐ顔に出ちゃうのよ!

あっさりバレてますます顔が熱くなるのを感じていると、倉橋さんはクスッと笑みをこぼす。


「その反応からすると、私の推測は当たってるみたいですね。実は、赤面するメカニズムはよくわかっていないので、一概に恋をしているとは断定できないんですが」

「……ほんとあなたって気に食わない」


軽くカマをかけられたようで悔しくなり、仏頂面で毒を吐いたものの、彼女はまったく気にせず笑っていた。