ほっと胸をなでおろし強張っていた肩の力を抜いた。社頭へ行ってみようかな、と興味津々に背伸びをしたその時、
「お嬢さん、お嬢さん、ちょっとごめんよ。そこを通してくださいな」
突然背後から声を掛けられ、慌てて身を引き道を開ける。すみません、と頭を下げて顔をあげる。
「悪いねえ、お嬢さん」
え、と目を瞬かせる。
紺色の着物を着ていて短髪で、袖手し首を傾げて立っているその人。
目がない。
口も鼻も、あるべきとことに何もなく、肌色のがのっぺりと広がっているだけで、顔のパーツが何もないのだ。
まるで、福笑いを始める前のような、顔の上に何もない────。

