体を起こし布団から出ると、今度ははっきりと雅楽の笛の音色が耳に届いた。
コートを手繰り寄せて肩に羽織り、静かに襖を開ける。
廊下のひんやりとした空気が一気に押し寄せてきてぶるりと体を震わせた。
恐る恐る襖から顔を出す。
耳鳴りを感じるほど静かな廊下は、かろうじて入ってくる月明りに照らされ青白く光っていた。
笛のぷわあんという音は、玄関に近づくにつれて次第に大きくなっていく。
雪駄に足を通して、音を立てないようにドアノブに手を駆けゆっくりと押した。
月光が眩しい夜だった。足元を強く照らし、地面に濃い影を落とす。
本殿の方角から華やかな雅楽が、にぎわう声が、妖しげなオレンジ色の光が届く。
これまでにないほど鼓動が波打つ。

