「父さん、今日は何か用事?」
「そう、真由美が帰ってきているって聞いたんだけれど」
お母さんの名前が出てきてドキリとした。大輔おじさんとお母さんは従兄弟にあたる。
「妖の便りは風の便りより早いからね」
片目を瞑った大輔おじさん。三門さんも良くしているしぐさだった。
それにしても、ここで暮らし始めてから今まで、妖のことを知っているのは三門さんと私だけだったから、大輔さんの口から“妖”と言う言葉が出てきたことが、とても不思議な感覚だった。三門さんのお父さんなら裏の社のことは知っていて当然なのだけれど、やはり不思議な感覚だった。
「ふふ、たしかに。それで、その妖の便りも本当だよ」
大輔さんは目を丸くして「本当だったのか」と確認するように呟く。
「何年ぶりだろう? 十年は帰ってきていなかったじゃないか」
「僕が十二の時の正月以来だから、丁度十年かな」
一瞬何か言いかけた大輔おじさんは、ふと思いとどまったかのように口を閉ざした。
「父さん?」
「ん、いや、何でもない。浩二や健一も呼べば良かったかなって思ったんだけど、真由美はそれが嫌なんだよなぁ……」

